数学の授業資料を作っていて、分数や積分の記号がどうしても入れられない。研究発表のスライドに、論文で使ったのと同じ数式をそのまま持ってきたい。エンジニアとして技術プレゼンをするのに、数式だけ手書きの画像で誤魔化している——。こんな経験、心当たりはないでしょうか。
実はこれ、あなたのやり方が悪いわけではありません。Googleスライドには、Googleドキュメントのような「挿入」→「数式」というメニューが用意されていないのです。同じGoogle Workspaceの中のツールなのに、ドキュメントにはあってスライドにはない。この非対称さが、多くの人を戸惑わせている原因です。
とはいえ、方法がないわけではありません。この記事では、Googleスライドに数式を入れるための実践的な方法を、難易度の低い順に4つ紹介します。それぞれの向き不向きもあわせて解説するので、自分の状況に合った方法を選んでみてください。
Googleスライドに数式エディタがない理由と、この記事の読み方
本題に入る前に、なぜこんな不便な状態になっているのか、少し整理しておきます。

Googleドキュメントは文書作成ツールなので、論文やレポートで数式を書く需要が最初から想定されており、標準の数式エディタが用意されています。一方のGoogleスライドは、あくまで「見た目を整えて相手に伝える」プレゼンテーションツールとして設計されており、複雑な数式組版よりもレイアウトやデザインの自由度、画像や動画の扱いやすさに開発の重心が置かれているようです。実際、Microsoft PowerPointには挿入メニューの中に数式エディタが標準搭載されているので、「スライド系のツールに数式機能がないのはGoogleだけ」という状況になっています。この非対称さのせいで、余計に不便に感じやすいのだと思います。
数式を含むプレゼン資料を作る場面は、思っている以上に幅広くあります。数学や物理、化学の授業資料はもちろん、研究発表のスライド、統計・機械学習の解説資料、エンジニアによる技術プレゼンなど、理系分野に関わる人であれば一度はこの壁にぶつかったことがあるはずです。
幸い、対応策は難しいものではありません。大きく分けると「①Googleスライド標準の特殊文字を使う」「②③LaTeX対応のアドオンを使う」「④Googleドキュメントで作って画像として持ってくる」という4つの方向性があり、それぞれ手間と表現力のバランスが違います。この記事では、この4つを順番に、実際の操作手順つきで解説していきます。まずは自分がどのくらい複雑な数式を、どのくらいの頻度で使うのかをイメージしながら読み進めてみてください。
1. 特殊文字から数学記号を挿入する(最も手軽)
いちばん手軽なのは、Googleスライドに標準で入っている「特殊文字」機能を使う方法です。アドオンのインストールも不要で、思い立ったらすぐに使えます。
手順
- Googleスライドを開き、数式を入れたいスライドのテキストボックスを選択する
- メニューの「挿入」をクリックし、「特殊文字」を選ぶ
- 検索ボックスに「数学」と入力するか、カテゴリ一覧から「数学」を選択する
- 使いたい記号(∑、∫、√、π、± など)をクリックすると、カーソル位置に挿入される
たとえば「x²+3」のような式であれば、「x」と打ってから特殊文字で上付きの「²」を呼び出し、続けて「+3」と入力すれば完成します。感覚としては、絵文字を選ぶのに近い操作で、特別な知識は必要ありません。
メリットとデメリット
この方法の良いところは、なんといっても導入コストがゼロなことです。ブラウザさえあればすぐに試せますし、挿入した記号はテキストの一部として扱われるので、文字色やフォントサイズも他の文章と同じように自由に変えられます。共同編集をしている相手が特別なアドオンを入れていなくても、そのまま見た目が保たれるのも地味に便利なポイントです。
一方で、分数や積分、行列といった「組み立て型」の数式には対応できません。記号を並べることはできても、分子と分母を上下に配置したり、根号の中に複雑な式を入れたりする表現力はないため、シンプルな記号を数個使う程度にとどめておくのが無難です。二次方程式の解の公式のような、分数や根号が組み合わさった数式を正確に見せたい場合には、次に紹介する方法を検討したほうが良いでしょう。
授業や打ち合わせで「ちょっとした記号をひとつ入れたいだけ」というときは、まずこの方法を試して、それで足りなければ次の方法に進む、という流れで考えるのが効率的です。
2. Auto-LaTeX Equations アドオンを使う
もう少し本格的な数式を扱いたいなら、「Auto-LaTeX Equations」という無料アドオンがおすすめです。LaTeX形式で書いた数式を自動で画像に変換し、スライド上に配置してくれるツールで、Googleスライドとドキュメントの両方に対応しています。

インストール方法
Googleスライドのメニューから「拡張機能」→「アドオンを取得」を選び、検索欄に「Auto-LaTeX Equations」と入力してインストールします。Google Workspace Marketplaceのページから直接インストールすることも可能です。初回はGoogleアカウントへのアクセス許可を求められるので、内容を確認したうえで許可してください。会社や学校のアカウントの場合、管理者によってアドオンのインストールが制限されていることもあるため、その場合は後述する方法④を検討してください。
使い方
インストールが終わったら、「拡張機能」→「Auto-LaTeX Equations」→「Start」の順にクリックすると、画面右側にサイドバーが開きます。ここで、数式のサイズを現在のフォントに合わせる「Auto」にするか、高さを圧縮する「Inline」にするかを選べるほか、数式を囲む区切り文字を「$$…$$」(二重ドル記号)にするか「[…]」にするかも設定できます。
準備ができたら、テキストボックスに区切り文字つきでLaTeXコードを書いていきます。たとえば次のように入力します。
$$\frac{-b \pm \sqrt{b^2 - 4ac}}{2a}$$
書き終えたらサイドバーの「Render Equations」ボタンを押すだけで、テキストが数式の画像に置き換わります。生成された画像は普通の画像と同じようにドラッグで移動したり、サイズを変えたりできます。修正したくなったら、画像を選択して「De-render Equations」を押せば、元のLaTeXコードに戻せるので、何度でも手直しができるのも安心なポイントです。
複数の数式を一度にまとめて変換できるのも、このアドオンの強みです。スライド1枚の中に数式が何個もあるような資料でも、テキストとして書きためておいて最後にまとめてレンダリングできるので、数式を1個ずつ処理する手間が省けます。LaTeXの書き方にある程度慣れている人であれば、テキストを打つのと同じ感覚で数式を量産できるので、数式が多い資料を作るときにかなり時短になるはずです。
3. MathFlow アドオンを使う(GUI操作派におすすめ)
LaTeXのコードを一から書くのはハードルが高いと感じる方には、「MathFlow」というアドオンが向いています。こちらも無料で使え、Googleスライド・ドキュメントに加えて、Googleフォームやスプレッドシートにも対応している点が特徴です。

使い方
Google Workspace MarketplaceでMathFlowを検索してインストールしたら、「拡張機能」→「MathFlow」から「サイドバーエディター」または「ポップアップエディター」を起動します。どちらも機能は同じなので、画面の使いやすさで選んで問題ありません。
Auto-LaTeX Equationsと違い、こちらは区切り文字を入れる必要がなく、LaTeXボックスにコードの本体だけを入力します。
\frac{-b \pm \sqrt{b^2 - 4ac}}{2a}
数式のサイズ(スケール)や背景色も画面上で調整でき、「Render」ボタンを押すとプレビューが表示されます。あとは「Copy」で画像としてコピーし、スライドに戻って貼り付けるだけです。
MathFlowならではの機能
MathFlowには、Auto-LaTeX Equationsにはないいくつかの便利機能があります。数式を画像ファイルとしてそのままダウンロードできる「Export Image」、記号をクリックで入力できるGUIの数学キーボード、入力したLaTeXコードをそのままコピーして他の場所で再利用できる機能、そして過去に作った数式を一覧から呼び出して再編集できる履歴管理機能などです。LaTeXの記法を覚えるのが面倒な人や、数学キーボードを見ながら直感的に組み立てたい人には、こちらのほうが取り組みやすく感じるはずです。
どちらを選ぶべきか
Auto-LaTeX EquationsとMathFlowの違いを整理すると、以下のようになります。
| 項目 | Auto-LaTeX Equations | MathFlow |
|---|---|---|
| 価格 | 無料 | 無料 |
| 対応サービス | スライド・ドキュメント | スライド・ドキュメント・フォーム・スプレッドシート |
| 区切り文字 | 必要($$など) | 不要 |
| 一括レンダリング | 対応 | 1つずつ処理 |
| 数学キーボード | なし | あり |
| 画像エクスポート | なし | あり |
| 履歴管理 | なし | あり |
LaTeXにすでに慣れていて、テキストをまとめて一括で数式に変換したいならAuto-LaTeX Equations、初めてでGUIを使いたい、あるいはフォームやスプレッドシートでも数式を使いたいならMathFlow、という住み分けで考えると選びやすいと思います。どちらも無料なので、実際に両方インストールして、自分の作業スタイルに合うほうを残す、というやり方でも構いません。
4. Googleドキュメントで作って画像として挿入する
アドオンを入れたくない、あるいは会社や学校のポリシーで拡張機能のインストールが制限されている場合は、Googleドキュメントの標準機能を使う方法があります。ドキュメントには元々「挿入」→「数式」というメニューがあり、分数や根号、上付き・下付き文字などを画面上のツールバーから組み立てられます。

手順
- Googleドキュメントを開き、「挿入」→「数式」→「計算式」を選ぶ
- 表示される数式入力バーで、分数や根号、ギリシャ文字などのボタンを使いながら数式を組み立てる
- 数式を200〜400%程度にズームしてから、その部分だけをスクリーンショットで切り取る(余分な余白は後でトリミングする)
- Googleスライドに戻り、「挿入」→「画像」→「コンピューターからアップロード」で貼り付ける
きれいに見せるための注意点
この方法でいちばん失敗しやすいのが、画像がぼやけてしまうことです。プロジェクターに映したときに数式の輪郭がにじんで見えると、それだけで資料の信頼性が下がってしまいます。対策としては、スクリーンショットを撮る前にできるだけ拡大しておくこと、そして画像の短い辺が1200ピクセル以上になるように書き出すことを意識してください。スライド側で無理に拡大せず、なるべく等倍に近い状態で配置するのもポイントです。
保存形式については、PNGを選ぶのが無難です。JPGは圧縮によって文字や線がにじみやすく、数式のような細かい線には不向きです。SVGはベクター画像なので理論上は拡大しても劣化しませんが、Googleスライド上での表示が環境によって不安定になることがあるという報告もあるため、重要な発表資料ではPNGを基本にしたほうが安心です。心配であれば、本番前に一度Chromeなど複数のブラウザで開いて崩れがないか確認しておくと安心です。
もうひとつ忘れずにやっておきたいのが、代替テキスト(Altテキスト)の設定です。画像を右クリックして「代替テキスト」を選び、「二次方程式の解の公式、分子は−b±√(b²−4ac)、分母は2a」のように、数式の内容を言葉で説明しておきましょう。スクリーンリーダーを使う人にも内容が伝わりますし、資料としての完成度もひとつ上がります。
この方法は、ドキュメントで資料を作りながらスライドも用意しているケースや、アドオンを使えない環境で確実に見た目を固定したい場合に向いています。ただし、画像化した後は編集ができなくなるので、数式に間違いがないか事前によく確認しておくことをおすすめします。修正のたびにドキュメント側からスクリーンショットを撮り直す手間がかかる、という点だけは覚えておいてください。
比較表とシーン別の選び方
ここまで紹介した4つの方法を、費用・難易度・表現力の観点で並べてみます。
| 方法 | 費用 | 難易度 | 複雑な数式 | LaTeX対応 | 編集のしやすさ |
|---|---|---|---|---|---|
| 特殊文字挿入(標準機能) | 無料 | 低い | 対応不可 | 対応不可 | テキストと同様に可能 |
| Auto-LaTeX Equations | 無料 | やや高い | 対応可 | 対応 | De-renderで再編集可 |
| MathFlow | 無料 | やや高い | 対応可 | 対応 | 履歴から再編集可 |
| Googleドキュメント経由(画像) | 無料 | 中程度 | 対応可 | 部分対応 | 画像化後は編集不可 |
この表を見てわかるとおり、どの方法も費用は無料です。違いが出るのは「難易度」と「後から編集できるかどうか」の2点なので、この2つを軸に考えると自分に合った方法を選びやすくなります。

正直なところ、「これさえ使えば間違いない」という唯一の正解はありません。ただ、目的別に考えると選びやすくなります。
授業や講義で、たまに簡単な記号を使う程度なら、方法①の特殊文字挿入で十分です。わざわざアドオンを入れる手間をかける必要はありません。数式の登場回数が少ない資料であれば、これがいちばんコストパフォーマンスの良い選択です。
一方、数学や物理、統計・機械学習の資料で、分数や積分、行列を含む本格的な数式を何個も扱う場合は、方法②か方法③のアドオンを検討したほうが効率的です。LaTeXにすでに慣れているならAuto-LaTeX Equations、これから覚えるならGUI操作ができるMathFlowが取り組みやすいはずです。とくに毎学期同じような数式を使い回す先生であれば、最初にアドオンを覚えてしまったほうが長期的には時短になります。
社内のセキュリティポリシーでアドオンのインストールが禁止されている、あるいは他人と共有するドキュメントですでに数式を作ってある場合は、方法④のGoogleドキュメント経由が現実的な選択肢になります。手間は少し増えますが、追加の権限許可なしで完結できるのが利点です。研究室や企業のように、個人の判断でアドオンを追加しにくい環境では、まずこの方法から試してみるのが安全です。
AIでスライド自体を作るなら、Presentiという選択肢もある
ここまで紹介した方法は、いずれも「Googleスライドという土台に、後から数式を足していく」というアプローチでした。しかし、そもそもスライド作成の段階からAIに任せてしまい、数式もその中で完結させる、という考え方もあります。
たとえば、AIプレゼンテーション作成ツールの Presenti には、ツールバーに最初から「数式」というボタンが用意されています。ここをクリックすると「LaTeX 数式」という入力パネルが開き、LaTeX形式のコードをそのまま貼り付けて数式を追加できる仕組みになっています。

このパネルがよくできているのは、「常用数式」というタブに、一元二次方程式の解の公式や、二元方程式、積分公式、等差数列の和の公式といった、よく使われる数式のテンプレートがカテゴリ別(数学・物理・化学)にあらかじめ用意されている点です。LaTeXのコードを一行も書けなくても、リストから該当する公式をクリックするだけでスライドに反映できるので、Googleスライドのように「アドオンを探してインストールして、区切り文字を覚えて」といった手順を踏む必要がありません。もちろん、右側の入力欄に自分で作った独自のLaTeXコードを直接貼り付けることもできるので、テンプレートにない数式にも対応できますし、下部のプレビュー欄で見た目を確認してから「追加」ボタンでスライドに反映する流れになっています。

数学や物理の授業資料を毎回一から作るのが負担になっている先生や、技術系のプレゼン資料をスピーディーに仕上げたいエンジニアにとっては、数式まわりの手間そのものをまとめて減らせるという意味で、こうしたAIツールを試してみる価値はありそうです。もちろん、すでに手慣れたGoogleスライドの環境を変えたくない人は、ここまで紹介した①〜④の方法を使い続けるのがシンプルで確実です。目的と作業量に応じて、使い分けてみてください。
よくある質問
Q. Googleスライドには本当に数式エディタが搭載されていないのですか?
はい、2026年現在も、Googleスライドには標準の数式エディタは搭載されていません。同じGoogle Workspaceの中でも、ドキュメントとスライドで機能に差があるという点は覚えておいて損はないでしょう。この記事で紹介したように、特殊文字やアドオン、画像化といった方法で代用することになります。
Q. Auto-LaTeX EquationsとMathFlow、結局どちらがいいですか?
すでにLaTeXの書き方に慣れている人にはAuto-LaTeX Equationsのほうがスピーディーです。テキストに区切り文字を入れておくだけで一括変換できるからです。逆に、LaTeXにあまり触れたことがなく、記号を見ながら組み立てたい人にはMathFlowの数学キーボードが助けになります。両方無料なので、実際に少し触ってみて自分に合うほうを選ぶのがいちばん確実です。
Q. アドオンで作った数式は、後から修正できますか?
できます。Auto-LaTeX Equationsであれば、数式画像を選択して「De-render Equations」を押すと、元のLaTeXテキストに戻せます。MathFlowの場合は、履歴管理の機能から過去に作った数式を呼び出して再編集や再利用が可能です。方法④の画像化(スクリーンショット)だけは、一度画像にしてしまうと編集できなくなる点に注意してください。
Q. スマートフォンのGoogleスライドアプリでも、これらの方法は使えますか?
特殊文字の挿入や、あらかじめ用意した画像の挿入はモバイルアプリでも問題なく動作します。ただし、アドオンの操作画面はモバイルだと表示が窮屈になりやすく、動作が不安定になることもあるため、数式まわりの作業はできるだけパソコンで行うことをおすすめします。外出先でどうしても編集が必要な場合は、あらかじめパソコンで作っておいた数式画像を差し替える程度にとどめると安全です。
Q. LaTeXという単語はどう読むのが正しいのですか?
「レイテック」「ラーテック」のどちらの読み方も広く使われており、どちらが正解でどちらが間違いということはありません。英語圏のコミュニティでも発音が割れているくらいなので、気にせず自分の言いやすい方で呼んで問題ありません。
Q. Googleフォームやスプレッドシートにも数式を入れたいのですが
複数のサービスをまたいで数式を使いたいなら、MathFlowが便利です。Googleスライド、ドキュメントに加えて、フォームやスプレッドシートにも対応しているため、ひとつのツールで統一した操作感を保てます。
まとめ
Googleスライドに標準の数式エディタがないという事実は、最初は不便に感じるかもしれません。ですが実際に触ってみると、特殊文字・アドオン・画像化という3つの方向性のどれかを選ぶだけで、たいていの数式は問題なく表現できることがわかるはずです。大事なのは「すべての場面に万能な方法」を探すことではなく、自分が作ろうとしている資料の複雑さと、かけられる時間に応じて、そのつど適切な方法を選ぶことです。
数式が正しく、そして美しく配置されたスライドは、内容の説得力そのものを底上げしてくれます。今回紹介した方法を参考に、次のプレゼンや授業資料作りに役立ててもらえたら嬉しいです。