アカウントプランを説明する資料には、顧客1社の具体的な目標をどう支援するか、そのために自社が次に何を知り、何をする必要があるかを示します。会社概要に売上目標を足しただけの資料ではありません。顧客の優先事項、実際の関係、現在の取り組み、実行できる少数の行動をつなぐ計画にします。

この記事では、架空の顧客Willow Facilitiesを例に、社内向けのアカウントプランと、顧客との対話に使う短い資料を作ります。市場や顧客層全体のどこで競争するかを決める営業戦略のプレゼンとは異なり、ここで計画する単位は顧客1社です。

まず事実と未解決の問いを整理します。そのうえで、顧客についての説明文から編集可能なスライド案を作成すれば、ツールに顧客調査の内容を創作させずに済みます。機微な顧客情報は自社で承認されたシステムで管理し、資料作成に使うことが認められた情報だけを入力してください。

1社の顧客を中心に、事業上の目標、現在の取り組み、関係者、次の対話を結び付けた図

売上目標ではなく、顧客の目的から始める

Willow Facilitiesは、複数のオフィス拠点の設備保守依頼を管理している会社です。自社は、その本部チームが使う依頼管理サービスを提供しています。前回の打ち合わせで、業務責任者から「日勤と夕勤の引き継ぎで同じ質問が繰り返されている」と相談がありました。確認できている顧客の懸念はここまでです。契約を拡大する必要があることまで示されたわけではありません。

「Willowの取引を30%拡大する」という社内の見出しは、自社が望むことを伝えます。しかし、Willowがなぜ何かを変えたいのかは説明しません。「導入範囲の拡大を提案する前に、引き継ぎの問題を把握する」とした方が、計画の目的が伝わります。商業上の目標は社内計画に残して構いませんが、顧客が行動する理由の代わりにはなりません。

顧客自身が納得できる言葉で目的を書きます。誰が述べたのか、何が未確認なのかも含めます。例えば「業務部門は、未完了の保守依頼を繰り返し確認せず引き継げるようにしたい。影響を受ける拠点と現在の遅延は未把握」と書けます。これなら、解決策を選ぶ前に範囲と影響を調べる、という次の作業が明確になります。

現在の状況を具体的にする

計画に必要なのは、判断を支えるだけの顧客情報です。CRMの全項目を移すことではありません。短い表で、分かっていることと推測していることを分けられます。

項目事例の記録で確認できることまだ分からないこと
現在の利用本部の業務チームが依頼管理サービスを使っている。他の方法を使う拠点チームはどこで、その理由は何か。
顧客の優先事項業務責任者が引き継ぎ時の繰り返しの質問を問題にした。どの引き継ぎで起き、どんな影響があるか。
関係者との接点顧客担当者は業務責任者とサービス調整担当者に会っている。拠点チームに影響する変更を誰が承認するか。
現在の契約・約束既存サービスの範囲が文書化されている。提案する調査に追加の支援時間が必要か。
考えられる商談社内で導入範囲の拡大を話し合った。顧客がそれを望んでいるか、予算があるか。

「社内で検討した」と「顧客から求められた」は異なる状態です。スライドでも区別してください。役に立つ計画は不確実な点を見えるようにし、チームがそれを減らせるようにします。見栄えを整える過程で仮定を事実に変えると、次の打ち合わせに誤った期待を持ち込んでしまいます。

時点によって変わる顧客情報には日付を付けます。昨年の組織図や予算の想定は背景として使えるかもしれませんが、いつの間にか現在の意思決定体制として扱わないでください。

権限を推測せず、役割と接点を整理する

関係者の図は、誰に参加してもらい、何を尋ねるかを決めるために使います。ひな型を埋めるためだけに影響力の点数を付ける必要はありません。

Willowでは、問題を提起した業務責任者、現在の引き継ぎを説明できるサービス調整担当者、変更の影響を受ける拠点チームのリーダーという3つの役割から始めます。複数拠点への導入を承認する4つ目の役割は、まだ分かっていません。連絡先の中で最も役職が高い人を購買決定者と決めつけず、その空白を示します。

  • 関心事:その人は今回の取り組みに何を求めているか。
  • 担えること:何を説明・提供・判断できるか。
  • 接点:自社の誰が、現在の適切な連絡経路を持っているか。
  • 次に尋ねること:その人に何を確認したいか。

サービス調整担当者には、「追加確認が必要になった最近の引き継ぎを、一緒にたどれますか」と聞けます。業務責任者には、「1つの拠点チームで変更を試す前に、誰の合意が必要ですか」と聞けます。両者を単に「影響力が高い」と分類するより、次の行動につながります。

関係者の図と、承認済みのコミュニケーション計画は同じではありません。別の人に連絡する前に、顧客担当者と連絡方法を合わせ、顧客側の進め方を尊重します。接点を増やすことが、そのまま良い関係につながるわけではありません。

次の商品提案より先に、次の対話を決める

顧客担当チームには、導入範囲の拡大を提案する、追加機能を紹介する、実際に作業する人と1件の引き継ぎを調べる、という3つの行動が考えられます。現在分かっていることに最も合うのは3つ目です。顧客は問題を示していますが、その範囲も、提案したい解決策が適するかも明らかではありません。

すべてのアカウントプランを調査から始めるという意味ではありません。顧客が具体的な拡大案を承認済みなら、次は導入計画かもしれません。行動を、根拠と実際の関係の段階に合わせることが大切です。

Willowの社内計画では、次の流れを提案できます。

  1. 1件の引き継ぎを確認することが役立つか、誰に参加してもらうべきかを業務責任者に尋ねる。
  2. 許可を得て最近の依頼を確認し、情報が不足した箇所や繰り返された箇所を記録する。
  3. 観察した問題と、既存サービスで現在対応できることを照らし合わせる。
  4. 業務手順の変更、現在の設定の調整、小規模な試行、追加調査など、範囲を絞った提案を持ち帰る。

4番目を意図的に「拡大契約を獲得する」としていない点が重要です。導入拡大が適切な結論になる可能性はありますが、調査すれば必ずそうなるかのように計画へ書くべきではありません。

社内計画と顧客向けの説明を分ける

社内のアカウントプランには、商業上の優先事項、リソースの制約、未確認の商談仮説を含められます。顧客向けの資料は、共有している問題、合意済みの情報、提案する次の行動を中心にします。社内資料を書き出し、1枚を非表示にしただけで共有してよいとは考えないでください。

社内計画の項目顧客向け資料での扱い
導入拡大の可能性顧客が話し合いたい解決策に関係する場合を除き、載せない。
未確認の意思決定権限誰に参加してもらうべきかを尋ねる。推測した権限図は共有しない。
顧客が述べた引き継ぎの懸念理解した内容を伝え、違いがあれば訂正してもらう。
提案する調査範囲、参加者、必要な時間、得たい成果物を示す。
社内の人員制約提供に影響することと、チームが約束できる内容だけを伝える。
社内アカウントプランから共有目標・合意した事実・次の行動を顧客向け資料へ移し、社内の仮説は分けておく図
顧客との対話には、社内計画の全項目ではなく、共有している事実と提案する行動を使います。

Willowとの対話は、「伺ったこと」「一緒に調べたいこと」「合意したいこと」の3部構成で十分かもしれません。長い社内計画は担当チームが使い、顧客に自社の営業プロセスをすべて読ませる必要はありません。

打ち合わせ後も使える計画にする

次の行動には、担当者、得たい成果物、実際の合意が必要です。「ワークショップを開く」だけでは、招待を受け入れた人も、何を解決する場かも決まっていなければ不十分です。

社内の記録なら、「顧客担当者が業務責任者に、30分の引き継ぎ確認が役立つか尋ねる。現在の困り事を示す事例1件を共有し、追加調査の必要性を判断することを成果物として提案する」と書けます。30分は、この架空の事例における提案です。Willowが約束した時間ではありません。

対話によって事実が変わったら計画も更新します。Willowから、勤務時間帯によってアクセス権限が違うために確認が繰り返されると説明されたなら、その説明と情報源を記録します。見栄えのよいスライドに書かれているというだけで、以前の漠然とした「研修の問題」という仮説を残さないでください。

カスタマーサクセスの四半期レビューでは、後から合意した成果を評価できます。アカウントプランの役割は別です。レビューとレビューの間も、顧客の優先事項、関係者、次に役立つ行動についてチームの認識をそろえておきます。

アカウントプランの原稿ひな型

顧客と計画の対象者:[顧客名、社内チーム]。顧客の目的:[述べられた懸念、情報源、日付]。現在の関係と提供範囲:[確認済みの事実]。未解決の問い:[不明な点と、その重要性]。関係する役割:[担えること、把握している連絡経路、未確認の権限]。次の行動:[提案、担当、得たい成果物、必要な合意]。商業上の仮説:[社内限定であることを明示]。顧客向けの要約:[共有目標、合意済みの事実、提案する次の行動]。

この原稿からスライド案を作ったら、顧客の立場で読み直します。実際に自分が述べたことと、売り手がそうあってほしいと思っていることを区別できるでしょうか。何に同意するよう求められているか分かるでしょうか。分からなければ、デザインより先に主張を直します。

アカウントプランが役立つのは、次の対話を導けるからです。関係が進むにつれて、単に長くするのではなく、より正確な計画にしていきましょう。