トラクションのスライドでは、支払い、継続利用、製品の使用、試験導入の完了など、顧客が実際に取った行動を示します。伝えたい進展を1つ決め、それを裏づける少数の指標を選びましょう。観測期間を明記し、顧客と見込み客の違いがすぐ分かるようにします。
最初に考える問いは「アイデアだけだった段階から、何が変わったか」です。自社の記録で答えを整理してから、その根拠をピッチ資料にまとめると、説明の軸が定まります。Presentiは資料のたたき台づくりを助けますが、顧客数、指標の定義、契約の状況は自分たちの記録から示す必要があります。

指標より先に、伝える内容を決める
見出しを単に「トラクション」とすると、大きく見える数字を集めた1枚になりがちです。「初期顧客が利用を続けるなか、有料アカウントが増加」のように書けば、何を示す数字なのかが分かります。その下の根拠にも、明確な役割が生まれます。
事業の段階によって、伝えられる内容は違います。初期の試作品なら、参加者が特定の課題を完了できたことを示せます。試験導入なら、小さなグループでの繰り返し利用を説明できます。有料顧客がいる事業なら、顧客数と継続課金額の推移を示せます。ただし、どの段階の根拠も、そのまま次の段階の成功を証明するものではありません。
| 持っている根拠 | スライドで説明できること | まだ分からないこと |
|---|---|---|
| 試作品の利用観察 | 参加者が完了できた課題と、つまずいた箇所 | 実際に導入するか、料金を支払うか |
| 無償の試験導入での利用 | 試験導入の条件と期間における利用 | 終了後も使うか、有料契約に移るか |
| 有料アカウント | 明示した契約条件での現在の導入状況 | 顧客が継続するか、提供を経済的に維持できるか |
| 繰り返し利用や更新 | 定義した顧客群での継続 | 他の顧客群にも同じ傾向があるか |
今ある根拠で支えられる内容を選びます。意味の異なる弱い指標を足して大きな数字にするより、小さくても定義が明確な実績のほうが判断に役立ちます。
1つの顧客事例を数字で追う
独立系の修理事業者向けに予約を管理する、架空のサービスを考えます。1アカウントあたり月額120米ドルで、この例には割引、従量課金、年間契約はありません。複数の従業員が使っていても、1アカウントは料金を支払う1事業者です。以下はトラクションの見せ方を説明するための架空の数字です。
| 月末時点 | 有効な有料アカウント数 | その時点の月額継続課金額 |
|---|---|---|
| 1月31日 | 8 | 960米ドル |
| 2月28日 | 12 | 1,440米ドル |
| 3月31日 | 18 | 2,160米ドル |
2月は有料アカウントが5件増え、1件減ったので、8 + 5 − 1 = 12件です。3月は8件増え、2件減り、12 + 8 − 2 = 18件となります。増減を示すと、解約などによる減少を隠さずに成長を説明できます。
3月の月額継続課金額は18 × 120米ドル = 2,160米ドルです。これは月末時点で有効なアカウントに対応する月額料金を表します。3月中に回収した現金、四半期に計上した売上、翌月の収益予測とは異なります。
さらに2つの観測を加えると、状況がよく分かります。1月31日に利用していた8事業者のうち、6事業者は3月31日も支払いを続けています。また3月最後の7日間には、現在の有料18事業者のうち14事業者が、サービス上で3件以上の作業を完了しました。前者は継続、後者は最近の利用を測っています。それぞれの対象群と観測期間を明記します。

見出し、主グラフ、補足情報の3段階で読ませる
見出し、中心となる図、2つの補足事実で構成します。この例なら「有料18事業者、初期8事業者のうち6事業者が継続」と書けます。成長と、最初の顧客群に起きたことを同時に示せます。
中心には3つの月末のアカウント数を置きます。縦軸をゼロから始める単純な棒グラフで十分です。横軸に1月31日、2月28日、3月31日と書き、棒のすぐ上に8、12、18を置きます。観測が3回しかないのに、長い実績があるかのような装飾的なトレンド線を付けないようにします。
グラフの横には、次の2つを短く示します。
- 月額継続課金額2,160米ドル:3月31日時点、18アカウント × 120米ドル。
- 有料18事業者のうち14事業者が主要な業務を利用:3月最後の7日間に、3件以上の作業を完了。
アカウントの定義と日付は、読める大きさで図の下に置きます。顧客の増減に関する詳しい説明は、発表者ノートや補足スライドに残せます。合計がどう変わったのかを聞かれたときに、説明できる状態にしておきます。
口頭では、例えばこう説明します。「1月末の有料顧客は8事業者で、3月末には18事業者になりました。初期の8事業者のうち6事業者は、現在も料金を支払っています。現在の18事業者のうち14事業者は、3月最後の週に3件以上の作業を完了しました。次の顧客群へ広げる前に、初期顧客2事業者が離れた理由を調べています。」
関心を示した見込み客を顧客数に足さない
同じ事業に、無償試用中の9件と、法的拘束力のない意向表明書3件があるとします。有料18アカウントに足せば「顧客30件」になりますが、性質の異なる3つの関係を混ぜてしまいます。
試用や意向表明が議論に必要なら、見込み客の欄を別に設け、「無償試用9件、法的拘束力のない意向表明3件」と明記します。対象が重複しているかも説明し、別々の顧客群だと決めつけないようにします。試用中の企業が意向表明書にも署名している可能性があります。
ロゴにも同じ注意が必要です。有名企業がデモに参加していても、購入したとは限りません。ロゴは使用許可があり、関係を正確に説明できる場合にだけ使います。関係が分からないロゴ一覧より、実際の関わりを短い文で示すほうが伝わります。
売上がまだなくても、トラクションのスライドは作れます。試験導入に招いた人数、開始した人数、完了した課題、指定期間内に戻ってきた人数など、持っている根拠を示します。自社チームが操作を手伝った場合など、利用条件も含めましょう。有料需要があるかのように見せず、結果を解釈できる形にします。
成長と継続を比較できる定義にそろえる
この例では、有料アカウントが8件から18件になり、増加率は125%です。割合は正しいものの、絶対数を見れば出発点が小さいことが分かります。割合を載せるなら、元の2つの件数と日付も併記します。
各時点で同じ定義を使います。1月は署名済み契約、3月は稼働中のサブスクリプションを数えると、測定方法の変化が成長に見えるかもしれません。同様に、事業者アカウントから個人ユーザーに単位を変えると、顧客が増えていなくても数は大きくなります。
継続率には、固定した最初の顧客群が必要です。1月の8事業者のうち6事業者が3月末も残っているので、この群の継続は75%です。6を3月の全18アカウントで割ると、別の問いへの答えになります。少数の顧客を短期間観測したこの値から、年間継続率を推計しないようにします。
実際の事業では、割引、プラン変更、休止、解約により、継続収益は「アカウント数 × 単一価格」ほど単純ではないことがあります。使っている定義を説明し、計算の根拠を確認できるように残します。スライドは説明を分かりやすくするためのもので、指標を黙って変更するためのものではありません。
スライドの裏側にある記録を用意する
観測日、指標の定義、値、根拠となる記録を、小さな表にまとめます。この例なら、有料状態は契約記録、1月の顧客群の継続はアカウント履歴、作業の完了は利用記録で確認します。公開するスライドに顧客の身元を載せる必要はありません。
確認した事実を、別々の文としてプレゼン資料のたたき台に渡します。観測した実績と、将来の目標を分けて指定しましょう。中心となる図を1つと、読みやすいラベルを依頼し、生成された数字や説明を元の表と照合します。入力していない予測、顧客の推奨、解釈は削除します。
既存の支援者に継続的に報告する場合は、投資家向けの定期報告として組み立てます。ピッチのトラクションは進展の根拠を紹介するものですが、定期報告では計画の変更、困難、具体的な依頼も説明する必要があります。この役割を分ければ、どちらの資料も目的が明確になります。